農を継ぐとは、何を受け取ることか。秋の読書に『わたしの農継ぎ』を。
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九月になると、畑の時間が変わる。
夏の強さが少し落ちて、土に触れる時間が伸びる。作物を収穫しながら、次の季節のことをぼんやり考える。秋はそういう季節だ。
農の仕事は体で覚えるものだ、とよく言われる。でも同時に、言葉でしか受け取れないものもある。先人の失敗、土地の記憶、誰かが「なぜここで農をするのか」を問い続けた時間。
今回紹介する一冊は、そのどちらも正直に書いた本だ。
高橋久美子『わたしの農継ぎ』
元チャットモンチーのドラマーとして知られ、その後詩人・作家へと転身した高橋久美子。愛媛の実家の農業を継ぐことを決意した彼女が、土を耕し、作物を育て、季節と格闘する日々を詩人らしい言葉で綴ったエッセイだ。
農業の「リアル」を書いた本は少なくない。でもこの本は、農の日常をただ記録するのではなく、「なぜ自分はここにいるのか」という問いを手放さない。
ドラムを叩いていた人間が、土を叩く。
音楽で旅を続けた人間が、ひとつの場所に根を下ろすことを選ぶ。
そのとき何が変わり、何が変わらなかったのか。本書はその変化を、静かに丁寧に言葉にしている。
「継ぐ」という動詞の重さについて
「農継ぎ」という造語が、まず面白い。
農業継承。普通に言えばそういう言葉になる。でも著者はあえて「農を継ぐ」と言う。継ぐのは土地だけではない。誰かが積み上げてきた時間、失敗、祈りのようなものを、丸ごと受け取ることだ、と。
読んでいて、これは農業だけの話ではないと気づく。
店を継ぐ、仕事を継ぐ、価値観を継ぐ。誰かから何かを受け取って、自分なりに続けていくことのすべてに、この「継ぐ」という言葉は当てはまる。
秋に読む理由
収穫の季節だからこそ、この本が沁みる。
実るものがあるということは、誰かが蒔いた種があるということだ。そのことを考えながら読む秋の読書は、ただの暇つぶしではなく、少し「継ぐ」練習になる気がする。
雨の日、作業が止まった午後。窓から畑を見ながら、こういう本を読む。
それが晴耕雨読というものだと、のこのこ書店は思っている。
購入・バンドルについて
高橋久美子『わたしの農継ぎ』は、のこのこ書店で取り扱い中です。
また、「晴耕雨読セット」では店主がセレクトした1冊を手書きのコメントカードとともにお届けしています。
この本が届く可能性もあります(在庫状況により変わります)。
のこのこ書店 / 2026年9月